2008年 04月 23日
リハビリ後の人生 / ケイト・オリオーダン (後編) 昨年ケイトは、自分自身の価値を強化するために友達を作ったり、人間関係を維持する取り組みを始めた。また、弟と彼の4人の子供たちとも連絡を取り合っている。 「とてもうまく行っているわ」「楽天家になったのよ」 おそらくそれは、16歳で家族の元を離れてからずっとそうだったように、ケイト自身、自分を守るために殻に閉じこもっていたという暗示なのだろう。コステロが2003年にカナダ人シンガー、ダイアナ・クロールと結婚したときは、寝耳に水だったようだ。 「完全に自分自身を切り離したわ」 16年連れ添った元夫は、イングランド・サリー州にあるエルトン・ジョンの邸宅で、出席者にポール・マッカートニー他を迎え、結婚式を挙げた。 「彼が出て行ったとき、すべてが終わったわ。契約終了よ。私に対する興味がなくなったってこと」 そうやって自分自身を守ってきたの? 「そうよ。自分の家族に対してと同じやり方でね。バンドも、元夫も、昔のボーイフレンドも。他にうまい方法を知らないから、実際対処なんてしなかったわ」 自分自身を『落ち込んだアルコール中毒者』とか、ダブリンに住んでいる『セックス・アンド・ザ・シティのサマンサみたい』だと言いながら大声で笑う女性に、僕はいまだかつて出会ったことがない。 「ここ2、3年は、ナイトクラブにいる本物の妖婦だったのよ」そう言って彼女はくすくす笑った。 ケイトは2003年に鬱病と診断された。彼女は非常に具合が悪かった。体重も激減し、不眠に陥った。ロンドンの医者に診てもらったところ、すぐに修道院病院に送られた。1週間後、担当の精神科医は、彼女が明らかに長年鬱病を患っていたと診断し、本格的な治療を開始した。 「ええ、治療の効果はあったわ。でも振り返ってみると、とても分裂していたわ。なぜって、私がいままで生き延びてこられたのは、いわゆる重大局面があったからなの。飢餓状態とか不眠とかではないけれど。当時入院中は飲酒の治療はなかったわ。そっちの方の治療は昨年やったの」 鬱病ともアルコール中毒とも無縁になって、父親の死に対して動揺しなかったのが不思議だと考えている。 「でも、セラピストによると、乗り越えられると思ったことしか乗り越えられないんですって」 ケイトによると、彼女の父親はエルヴィス・プレスリーやジョニー・キャッシュ、カントリー・ミュージックにハマっていたという。 「いつも言っていたわ。俺はダブリン初のテディ・ボーイなんだって」 彼女の母親はエディンバラ郊外の出身だが、イヤな思い出しか残っていないそうだ。しつこく頼んだが、ついにケイトの口から母親の名前を聞き出すことはできなかった。 ケイトは多くの困難を経験し、そこから抜け出し、痛手を受けてきたが、一方賢くもあった。地獄から這い上がってきた多くの人々がそうであったように、彼女は自分自身の勇気と努力をすぐに認めようとはしない。 「私は本当にたくさんの助けをもらったわ」 「お金がなかったらいままでどうやって生きられたのかわからない。誰しも自分ひとりだけでやれるとは思わないわ。私だってそうよ。もしお金がなかったら、いいお医者さんにも診てもらえなかったもの」 「すごく具合が悪かったとき、アイルランドでお医者さんのところに行って、睡眠薬を処方してもらったけど、とてもばかげていると思った。それで、10代の頃からお世話になっているロンドンのかかりつけのお医者さんを訪ねたら、即座にこう言ったの。『なんてこった、すぐに入院が必要だ』 でも、アイルランドのお医者さんは睡眠薬をくれただけよ」 「ロンドンで入院したのは精神科の病院よ。先生が退院して大丈夫って判断するまで入院するの。私は入院患者として3ヵ月間入院して、その後の3ヵ月は外来診療を受けたの」 ケイトに会って、彼女の身長(5フィート10インチ=約178cm。「両親はふたりとも巨人だったから」)以外で気づくこと、それは彼女がいつも微笑んでいる、ということだ。 「微笑んでいて背が高い、それってプロザック(睡眠薬)よりいいことでしょ」 彼女が無人島に持って行きたい3枚のレコードは、エルボーの『フュージティヴ・モーテル』(孤独と混乱の中に美を見出している)、ポーグスの『レイニー・ナイト・イン・ソーホー』(シェイン書いた中で、もっとも偽りがなく、ストレートで美しい曲)、そしてルイ・アームストロングの『この素晴らしき世界』(曇り空を明るくする曲)、だそうだ。自分の葬儀のときは、ウィーン生まれのバリトン歌手、ヴォルフガング・ホルツマイアーにシューベルトの『音楽に寄せて』を歌ってもらいたいという。 「準備は万端なの」「ヴォルフガングの都合がつかなかったら、トム・ウェイツに『夢見る頃はいつも』を歌ってもらいたいわ」 いままで恋したことはある? 「いいえ・・・まだよ」 コステロに恋してなかったの? エルヴィス・コステロに恋したのに、目が覚めたらデクラン・マクマナス(コステロの本名)だったとか、そういうこと? 「そんなんじゃないわ。私はとても若かったし。いままでの人生で誰からも愛されたことがなかったのに、突然彼が現れて、愛情を示してくれて、やさしくて、私に興味を持ってくれたのよ。素敵だったわ」 じゃあ、何がいけなかったんだい? 「それは彼に聞いてちょうだい。私が彼を棄てたんじゃないんだから。彼のほうから出て行ったのよ。だから、なぜうまくいかなかったのか私にはわからないの」 要はこういうことだろ、コステロは君が持っていなかったものをすべて与えた。なぜ君は彼が与えたその愛を受け止め、抱きしめなかったんだ? たとえそれが君にとって異質なものであっても、退けたりせずに。 「たしかに、私にはどうしていいのかわからなかったのよ」 「私には、愛された経験がなかったから、どう応えていいのかわからなかったの。だから、愛情が完全に無駄になってしまったというわけ。でも、セラピーを受けるまで、それに気づかなかったの」 一方のコステロについては 「二人がうまく行かないってわかったから、出て行ったのよ」 ケイトが最後にコステロに会ったのは、2002年の暮れだそうだ。1986年5月17日に二人が結婚した、という報道を彼女は否定した。 「みんなはコステロに取りつかれているのよ。私は克服したわ。努力すれば克服できるわよ」 「結婚はしてなかったのよ」 「イスラム教の『お前との関係は解消する』みたいなものだったの」すごく簡単な終わり方で、紙の上でも結 婚の証拠もなく、子供もいない。「もし誰かがあなたに向かって、私みたいに、もうこれっきりだって言われたら、ただ『分かった』って言って、そこから立ち去って、後ろを振り返らなければいいのよ」 Independent
by chihon
| 2008-04-23 00:03
| Cait O'Riordan
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